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    終わりの世界を見た。

      じゃが、皆が思う終わりとは程遠かった。死体が転がるとか、ビルが崩れ落ちたり、戦争をしたり、震災が起きたりもしなかった。いつの時代のように人は同じ顏である。でも中身が違う。魂が抜けている。杞憂した如く、人工知能に支配された訳ではない。人間自ら、魂を切断した。そう、斬り落とした。まあ、原因は人工知能であるのは否定できぬ。人々が電波を使用し始めたから、どんどん魂を信じるより脳を信じるようになった。するとどんどん目に見える事、正しい事、事実のみ信じるようになった。これにより魂で言の葉で話す機会が経って、一定距離をおいて短く話す風習が生まれた。それが若者から老人まで世代交代になり。いよいよ終わりをつげたらしい。   ここまである通り過ぎる老人に聞いたが、あまりも理解ができない話だったけど、なにか重要な話そうだったのでできるだけ聞いたままに書いた。自分で書いてなんと雑な話だと思ったが、その雑さこそがその老人らしさだったので仕方ないなと思った。思った思った五月蠅い。なぜかあの老人の事を考えると話が上の空のようになりそうだ。一旦この話はここで切るか。そして自己紹介しようか。挨拶は大切な和の文化だから。名は仙名祐渚寺。せんなゆうしょじである。仙名家の五代目当主なるはずだったが、そうなると時代遅れだと罵られるので五代目神主と一応表にはそう言っている。まあ、神主も当主のように悪い目で見られるが、せめて罵らず無視するか都合がよい。一応、男だ。後、A型で、好きな好物は鍵饅頭。生まれた年は秘密(言ったら時代知らずめと罵られるので)。後、あるのか?思ひついた時に謂おう。季節は桜時縁(さくらじより)。あ、春の始め頃だ。

    桜時緑 あの、「時の終わり」を、 「時のおこり」と読んでみる事にした

     暖かいな風邪が隙間より入って来た。足元を擽りながら暖かく身を包んだ。鼻から花の香が心経を刺激し、血の巡りが活発になり。自然と目が覚めた。まだ、桜は芽だけ挨拶しているが、背伸びしようとするように枝を揺らしていた。ぼーっとしている自分が子守唄のような鳥の囀りで二度寝に入ろうとする時に、子猫が腹が減ったと「にゃー」と鳴き出した。寝台からごろごろ転んで畳に身を投げた。冷たい~。蛙のように泳いで、猫餌を取り出し、皿にのせた。猫は私の額を片手でハンコのように押した。これは「ありがとう」という意味だ。元気を貰った私は身を擡げ、白く清らかな着物を肌に優しく纏わせ、襖を開いた。朝日が私の空っぽな身体を元気に暖めた。私は神々しい気分を味わいながら、左にある襖を開いた。そこはトイレ。蛇口から湧き出ている地下水を身て、凄まじい瀧を思い浮かび、水がこぼれだしている洗面台に頭を沈めた。冷たい水が私に生命力を吹き込み目がぱっと開いた。顔をあげ、布巾に顔を押した。「柔らか~」と無意識に叫んだ。そしてその辺りにある雑巾と床に寝っている水桶を手に取り朝日が迎えた場所に戻った。 「よし、掃除始めるか!」 ここは聖域。神域である。つまり神社である。 水桶に雑巾を沈め、取り出し、絞り。床掃除。 子供の頃からこの掃除は一番好きだった。 なぜなら畳で敷かれているこの神殿(やしろ)を自由に走り回れるのはこの掃除のみ。 普通は謹んで静かに動かなきゃいけない場所で、「走る」という行為はなぜか背徳感があるが… 実に人間らしき行動でもある。つまり本能的である。 言い換えれば、煩悩する社(ところ)で、本能に身を任せているという事。 「今日もありがとうございます神様」 床掃除を終えて神鏡の前で礼をした。 そしてそのまま後ろを向き、松の木をぼーっと眺めた。 静かで、和(のど)かな場所。ここだけ時間がゆっくり流れるようだ。ゆっくり揺れる松の葉。同じ風立ちでも、枝一本一本違う舞を踊っている。その様はさぞ美しく、で心を安らぎに誘った。だんだんと眠りへ導かれていく頃。 一匹のサギがその舞に乱入した。 急に時間が早く流れた。サギはただ池の鯉を狙うために枝に足を乗せただけだが、なぜか悪い事をしてしまったように見えた。しかし、松もサギも善も悪も考えない。人間の勝手な審判である。そう可笑しいな事を考える内に鈴が鳴るのが聞こえた。 「うん?」 今度は時間が物凄く遅く流れて来た。 私の耳が間違ったのか、幻聴?それとも幽霊や妖怪の仕業なのか。このご時世で鈴や鐘を鳴らすのは危険な行為である。今すぐ警察が走って来ても可笑しくない。危ない。 一瞬の判断で、私は思わず、ガラスの襖を開いた。 神鏡と賽銭箱の間を隔てるこのガラスの襖。開けるや否や、分離された空間が交ざり一つになると…鏡を含め、家にある全てのガラスが時の波にぶつかり、破片へと変わった。 そして、見え始めた。 鐘を鳴らした、主犯。 それは、幽霊も妖怪でもない。人間。 同い年の一人の女の子。 『上ヶ原三ノ宮高等学校』の制服。黒をベースに所々白が混ざった服。 私と同じ高校だ。校則は厳しくないと有名だが、これはさすが退学もありうる事態。 「あ…」 私は彼女の祈りを辞めさせようとしたが、もう遅かった。 祈りが始まった。 弐拍 『神様、どうかお願いします』 弐礼 『私をどうか助けてください』 順序が間違っている。でも、まあ、いい。ここの氏神様は許してくれるはず。いや、許すべきだ。この世の最後の祈りかも知れん。ともかくどの願いなのか。内面の心を聴ける私は興味深々となった。彼女を見ると、目を閉じて時間が止まったように静かに手を合わせている。 無動、不動。どっちでも言える。神々しい。この祈りが本来の祈りなのか。 『この病を治せてください。』 病? 『胸が苦しくなると体が縮んじゃうんです。なぜ、なぜ、なぜ。医者は疲労のせいだと言うし、なにがなんなのかわからないんです。助けてください。お願いします』 外見と違い。内面は淀めいていた。 淀。 こういう悩みを聞いた以上、神主として見過ごせる訳にはいかん。と思い声をかけようとしていた時。 壱礼 賽銭箱から煙がもくもく上がってきた。そして小銭が何かに反射され目が痛むほど光り出した。神々しい。 そして… 「ぱ~っ!神しゃま登場!ふ~わっ~人間界の空気ひしゃしぶりじゃ!」 「?」と情景が追いつけず、目が止まっていた。 「ほわ~」私はまさか本当に神が現れると思わなかったので驚いていた。 「なんじゃその反応!崇めとはいわんぎゃ、なんかいいなしゃい」 「きゃわいい~」彼女は本音が露わになってしまった。 「誰が子供じゃ!これでも「ピー」年生きた立派なレーディなんじゃ」 そう、この神様。身長88㎝である。そして頬っぺたが真っ赤で可愛いのは否定できぬ。 「子供っていってない~子供ぽっくて可愛って言ったの」 「どっちも同じじゃ~」 「ってかなんでダメ口」 私は心に思い浮かんだ言葉がそのまま口に出た。 「あ、わしが神しゃまだからじゃ、硬言葉もええけどわしはダメ口が好きじゃ」 「ともかく、この病の原因はなんなの?」 「そうね、わからん」 「え~」と私は意外な答えにどう反応すればいいのか迷った。 「うそ」彼女は落胆し、座り込んじまった。 「あ、いや原因はわかるが、解決策はわからんじゃ」 「え?」どういう意味? 「これは『脳派幻集実化有来病(のうはげんしゅうじつかありきびょう)』で人為的な病である。つまりなにものかがこの神しゃまに逆らおうとするという意味じゃ」 『脳派幻集実化有来病(のうはげんしゅうじつかありきびょう)』、漢字が並べすぎて一体何の意味か分からんかもしれないので、説明しよう。機会を利用し脳波を刺激し幻の情報を見せる、それが蓄積すると情報を真実だと思いこみ実物に化け、本物になる病。 『脳派幻集実化有来病(のうはげんしゅうじつかありきびょう)』、もっと簡単に言えば。 嘘を信じると、事実になり、現実を改変するという病。 「つまり、誰かが自分を狙っている事ですか」 「そういう事じゃ。もはや人間は神を無視する事にとどまらず愚弄するつもりなのか、許さん」 神様の目は燃え上がった。 「仕方(しきゃた)ない。このわしがお前を守る。約一世紀ぶりの頼み事じゃから」 「ありがとうございます!」 彼女は心を込めてお辞儀をした。 「しきゃしじゃ、ワシは氏神しゃまなので神主の傍にしか居られぬじゃ」 「?」彼女と私は首を傾げた。 「つまり、今日から二人一緒に過ごす事を提案するのじゃ」 「…え~~~~」二人は息ぴったりに叫んだ。 「うるっしゃいじゃ、同い年で同い校であるのじゃ、なにが問題じゃ、二人とも恋愛経験ゼロじゃし、チャンスではないか」 「うるっさい、女心(おなごころ)を把握してくれ、神様!」 すると、じーっと観察し始めた神様であった。 「そうね、男の前だからきちんと言ってないだけで、実はすごく嬉しくてたまらなくなっているのじゃ。まあ、変な意味じゃなく、過去とつながったコ」 「それ以上はダメダメ、ダーメー」 「わかったわかった。女心女心大事」 彼女は顔が真っ赤になっていた。私の心がなにかを感づいたのか激しく走り始めた。 「おい、神主、問題(もんだゃい)ないじゃの」 「あ、家はどっちらがいいです…どっちが好きなの」 無意識に硬言葉を使おうとすると神様が睨んだ。怖い~普通はダメ口を言おうと怒るのでは。不思議な神様じゃ。 「そうね、この神社もう飽きたし、彼女の家へ引っ越そうか」 「え、ちょっと待って、準備が」 「問題なかろう、お前んち広いし、そもそもここの鏡割れたので今行くのはおちゃのこしゃいしゃいじゃ」 なぜか、しゃいしゃいの部分で手で踊る可愛い神様じゃった。 「いやだって傍から見たら、完全に夫婦じゃん~」 神社がぶっ飛ぶほどの大きな声を発しながら、頭から炊飯器のような熱気を出した。 「そろそろ学校に行きょうか、地獄、いや遅刻しちゃうわ。あ、学校では「美羽(みう)ちゃん」って呼んでね」 「みうちゃん~」 「お前は呼ぶな、この神主~」 なぜか、殴られて、自分の部屋まで飛ばされた。 「じゃ、よろしくね美羽ちゃん」 「よろしくたゃのむじゃ」 二人と満面の笑みを見せた。よかった先まで荒い波で淀めいた彼女の心はやっと静まった。 これくらい、この病をどう乗り越えればいいのかも重要だが、その前に新しい友達?が出来てなによりだ。ってか私神主ぽい事なにもしてないじゃん! せっかく格好いい所をみせようとしたのに…ってか着替え着替え? うちの家と神社、完全崩れ落ちたんじゃん!やっぱり神鏡が壊れたからかな…なんで割れたのかな… 私は一応防犯のため残っている壁のあっちこっちに札を張り、学校に向かった。 二人はもう既にいっちまったか、って私は眼中にないのか! これで私の一番爽やかな(?)青春が始まった! 壱「神祈り、神頼み」 祈りと頼み、似ているが違う。 神という言葉を人にしてみよう。人に祈る、人に頼む。 祈る「受験に受かりますように」「彼氏ができますように」。 頼み「受験に受かるように手伝って」「彼氏ができるように手伝って」。 そう、祈るは間接的、頼みは直接的な要求であっても過言ではない。 簡単に言えば、頼みを聴くと手を出すということである。しかし、これはあくまで人間の場合。では、神の場合どうなるのか。似ているようで、似ていない。 一体こんな、変な話がこの物語に一体、どんな関係があるのか。あるのだ。彼女がこの神社で祈ったが、頼んではない。まあ、普通の人間はそう細かく考えないから、区別しちゃいけないと思う方もいらっしゃるが、彼女がどうも普通とは思えないので、区別してないという可能性は低い。彼女は知っていたのだ。自分の病。頼みで解決できぬ。 学校。話は学校から始まる。 上ヶ原三ノ宮高等学校。この学校は過去に神社が建っていた所であった。廃社された後に建ったので伝統もくそもない。むしろ建設当時から最先端技術まみれだったので、重伝建に指定されている。それでだれも神社については知らん。忘れ去られた。 「遅いのじゃ、神を待たせるとは天罰じゃ」 そんな学校に、氏神がいらっしゃる。前代未聞、未曾有の事態だ。 「当たり前よ、家が…すみません」 神の前に言い訳なんてできない。体が拒否させた。 「みうちゃん、そんなやつにかまわないで」 「あいつ、頭がおかしいのよ」 「なんで学校に来たかしら」 教室のあっちこっちから痛い目線が。いつもの事だ。慣れてる。 「あ、チャイムがなったの」 神様は私に目もくれなかった。あ、なんで私は神主の家で生まれたのか…普通の家に生まれたらよかったものの…世界に反する意を持つ者は、滅ばせるのが当たり前か。 担任先生は存在しない。学校さえ来れば良い。後は既定の時間さえ満たせば良い。だけどこれに裏技がある。椅子を机にのせればいい。それだと公欠になる。不思議なのは公欠は出席扱いになる。なぜだろう。ちなみにこういう教育方法を「空間移植」といい。空間にいるだけで情報の移植が可能になる。つまり座ったままで世界の情報を叩き込められる。 今の時代、人間の意の儘に、座った儘、何でもできる。働かなくても食える。便利な世の中じゃ。 私は学校を後にした。自分を嫌う場に居る理由はない。あ、どこへ行けばいいのか。 この世に私の居場所はない。 最後の砦も陥落した。 校門を出た。 そして 「待ちわびた、仙名!やっと会えた、やっと…さあ、帰ろ」
      ここから→ 幼女? 「君?誰?」 「誰かって、先、神社であったユイカでござる」 「でござる?」 「いや、じゃの、だったけ」 「あの神様の口癖なら、のじゃ、であってる、ってかお前はあの祈りをした女の子か!」 「シっ!警察にバレたらどう責任取るつもりなの」 「あ、そうか、え?じゃ…今小さくなっている事は」 「そう例の病じゃ、いや、病だ」 「美羽さんと一緒じゃなかったの」 「美羽ちゃんは、久しぶりの人間界じゃといいながらはしゃいだから、どうすればいいのかわからないし、やることもないし、学校でも徘徊しようかな、と思ったら君を見つけたの」 「そうか、それでどこ行くの」 「五年ぶりだし、つもる話もあるから、家(うち)に来い!」 「はい!行きます!」 「お前、ずいぶん変わったな」 「今、家が潰された、いや倒壊したので、正気じゃない」 「それは、大変だね、ちょっとしゃがんで」 「あ、わかった」 一体、彼女は何をしようとするのか。まあ、特に期待もしないけど。彼女は確か一緒の小学校だったけど、ただの知り合いで、これといった接点はなかった。今まで覚えているのは不思議だけど。 「人って変わると思う?」 「え?」 急な哲学的な質問が耳元で傾(なだ)れ込(こ)んだ。 「人生で三回くらいは変わるんじゃない」 成長期は二回、更年期が一回、計3回と思った。 「面白い答えね、友達、恋人、結婚、それで3回か」 いや、違うけど。 「私もそうよ、最初に友達と思った、とある人が、やだ恥ずかしい」 「はい?」 いや彼女はなにを言おうとしているんだ。 「話がうまくいかないな、あ、美羽だ」 「あれどこ?」 私が校門を見ると… 「ちゅー」 彼女が私の頬っぺたに唇をつけた。 「ほへ~」 「あれ、刺激が強すぎたかな?」 「な、なんで…」 「え~神主がそれを知らないの?」 「縁結び?」 「もう、結んだよ、バ~カ!」 彼女は走り出した。 「おい、学校はどうするの?」 「そもそも、私あまり登校しないの」 「え~美羽は~」 「もう別の女の子に目が行くの~へん~たい~」 彼女はなにを言っているのか判らないけど、彼女のあの純粋な笑みは、心を動かした。そして… 「待って~」 美羽が登場した。修羅場じゃ。 「もう、神様、雰囲気読んでください~」 「え?まさかの告白ハプニングの最中、おう~そーりめんごめんご、許すぴー」 なんか、色々な人に影響した所為なのか、神様、美羽さんの声がうざく聞こえた。 「仕方ない、特別に縁を結んであげるハ、ユイカサンハ彼ニ永遠之恋ヲ誓イマスカ」 「え?急にそこから、早すぎるよ、神様、いや美羽ちゃん」 「恥ずかしいのか、しゃねーその恋、永遠に結ばれ、萌え萌えきゅん~」 そういうと、日差しが私を照らしてくれた。そして、祝福の雨が降り出した。 「お!晴天に小雨か!幸せになるのじゃぞ!では、さらば」 神様、いや、美羽はそう言いつつ姿を晦ました。 「もう、こんな時に~」 そして、彼女は元の姿に戻った。 「走れ、仙名」 鞄を頭に乗せ、水溜まりを構わず踏みながら、走り出した。 冷たいはず、雨水が、なぜか暖かく感じられた。 彼女も笑顔で走る。私は幸せな男だ。 弐「神、現に在らず、人、現に限らず」 竹林。 竹だらけ。 竹竹竹竹竹。 そして鳥居。崩れかけている。元々は真っ赤であるはずが、塗料が剥がれて腐食し、真っ黒の色に。不思議なのは汚れてはいない。まるで自然の一部のようだ。奇麗。なぜだろう。 この場所に見覚えがある。なぜだろう。 「蕎麦と饂飩、どっち」 この家の主である彼女が言った。 「どちらかといえば、蕎麦かな、急になんで」 「家が広すぎて、よく途中の茶屋で間食を取るから」 「え、車で行けばいいんじゃない」 「神聖な領域に、下馬は当たり前」 「神域?」 「そう、ここは神社だよ、『神御処神社(かんみどころじんじゃ)』、そして私がその巫女だよ」 「へ~私と一緒か、大変だよね、来る人もないし」 私は誰もなくて心細かった時を思い返した。本当に最近は、人と人を繋ぐ行事や祭がなくなり。それを可笑しいとは誰も思わぬ、ただ古いから消えてゆく、そう思っている。それでなくなった文化の数々、許さぬ。心から怒りがメラメラ焚きあがったが、すぐ鎮火させた。 「まあ、でも私は八百万の神様に囲まれて、淋しくはなかったけど、自慢じゃないぞ」 「え?」 「ここは、神様を癒す空間だよ、まあ、元々は子供が自由に安全に遊べる神隠し所だったけどね」 「え~」 「今は、ほぼ唯一残った神社になっちゃったけど、率直に君の神社が残っていた時はびっくりしたよ」 「そう?」 確か、森に囲まれて、外から見たら、ただの山に見えるし。一番目立つ所にいた石の鳥居は、砕け落ち、元の石に戻ったし…確かに。 「今は、人間は、神離れしている。まるで親離れ、これで人間は完全な自由を得たわけさ」 ほぼ、半世紀前の話だね。 「でも、それで、人間は幸せになったのか。自然を隔離し、完全に異次元、ネット界で生きておる、幻の情報、機械吹くホラに躍らせ、飲んだりう歌ったり、全く思考をせぬ。一世紀以前には、人間が機会に支配されるといわれたけど、全然違う。むしろ逆だ。人間が自ら虜になってしまった。そこで、私たちは、失礼、八百万の神様は、この人間界を、一遍初期化するのに決めた。しかし、今の人間らは、災難に強すぎる、化学で全部塞ぐ、信仰がないから祟りも起こせないし、そもそも死を恐れぬ。状況は厳しい。そこで」 彼女は、胸の奥に秘めていた思いを、思いっきりこぼした。さぞ辛かっただろう。慣れない人類と、わけわからん茶番を繰り広げ、続け。本当に友情を分かち合い、時に戦い、時に罵るのはもう亡くなったから。今は、そういう事をしたら、変に思われるし。 「なんでもやってやるさ、だから隠さず言え」 私は、彼女の悲しくなるにも、この状況を打破したい、複雑の表情に心が動いた。そもそも、後ろに神様が支えてくれるんだったら、なにも怖くないと、自分は思った。この世のため。いいではないか。文献には記録されなくとも、ここに生まれて理由には上出来じゃないか。私は、人生で、初めて、熱が上がった。こんなになにか、熱くやりたくなるのは始めてた。多分、この世で自分と同じ事を思ふ人と出会ったからだ。彼女は、まるで生き別れの妹みたいに、私の胸をなで下ろしてくれた。あ、悩みをすこし、解放するだけでこんなにすっきりするのか。 「え、まだなにも言ってないけど」 「大丈夫、君といるなら、なんでもやってあげる、なんでも聞いてあげる、そう自信が沸いた」 「面白い。やはり私の見込みは間違ってないのか、嬉しい、あら」 茶屋についが、人でいっぱいのように見えた。今まで聞いた事がない、地面にひびが割れそうな大声で語る音、どっかで聞き覚えがある懐かしい雅楽の音、ここは賑わいの市のようだった。 「みんな、集めてくだしゃ、いや集めてくれるとは」 「当たり前じゃ、いい男連れてくると言ったから、誰かと気になって駆け付けたのさ」 上着を抜いて、酒をがぶがぶ飲む、髭が長いお爺さんが言った。 「女々しくて、全然男っぽくないじゃん、女子(おなご)か」 隣で、漬物をむしゃむしゃ食べる、先の人より細いお爺さんが言った。 「ねえ、これ固定概念法律に違反するんじゃない」 男はこうだ、女子はこうだ、職人はこうだ、等々。目に見えない概念を言葉で縛るのは禁じられた時代だ。 「気にしなくてもええでー、ここは、人間界じゃね、女子も男も関係なく、楽しむ場じゃ」 見た事がない食べ物を載せた皿を持ち歩いているお姉さんが言った。饅頭なのか、白いけど。 「もしかして、ここが、どこかわからないのか、迷子?遊ぼうか」 急にどこかで女の人の声が聞こえ、手毬が急に飛んできた。 「蹴鞠じゃないぞ、蹴ったら女子が泣くぞ、泣かせたらいかんぞ」 まだ、知らない方向で声が聞こえた。 「鞠ってなに」 その時は鞠、マリを知らなかった。なので小声で彼女に訊いた。 「ボール」 賑わいすぎて、何も聞こえない。 「なに?」 『ボール~』 するとみんな一斉に笑いながら、答えた。少し怖かった。こんな小さな声、全部聞きながら話していたの。すごい~人間じゃないみたい。 「人間じゃないよ」 心読まれた。見知らぬ誰かが言った。 「我らは」 『八百万の神だよ~』 え~~~~えええええええ~~~え~~~~~~~ 「申し訳ありません」 そうね、普通に考えると、そうね。これはとんでもない失礼を。どう謝ればいいのだ。 「大丈夫、あの神様がいったように、尊敬する心を持っていれば、ダメ口でもオケーだよ」 彼女は優しく微笑んだ。 「昔は結構厳しかったけどね、今はそこまで厳しくしたら信者たち逃げられるでしょう、まあないけどね~」 「そもそも、今の子たち、尊敬語使わないよ」 「あら、そうだったかしら、時代早いな」 「尊敬語もそれなりの美しさがあるのに、残念だわ」 「あれ、尊敬語知らないのって本当」 あっちこっちで飛び交う話。嫌いではない。なぜだろう、生き生きしているからかな、自分のテンションが上がり始め、対話に参加したくなった。 「あ、それじゃ、正式に挨拶しようと思います」 私は人生で初めて、大声を出した。これ、自然と出来るものだったのか。自分でもびっくり! 「かしこまらなくていいよ」 「羽目を外せ」 八百万の神様は私に目を始めるために、席を移動したり、動いたり、どたばたしたけ、意外とこの音が緊張を解した。 「えっと~名前。名前。なんだっけ」 いや、全然ほぐれてなかった。 「大丈夫、大丈夫、笑顔!」 立っている私の隣に彼女が座っていた。彼女の笑顔を見ても名前が憶えだせない。どこいちゃったのか、私の名前。誰かに呼ばれた記憶がない。親との記憶もない。自分の名前。知らない。 家柄は覚えている。仙名家。代々に神社を守って来た。でもそれは私じゃない。それは、定。自分は、また別だ。だから、苗字と名前は別だ。でも覚えていない。 名前。名前。名前。自分の存在。在り処。正体。記憶。追憶。 古すぎて、埃だらけの記憶の破片を洗い出した。でも、何もない。まるで再生できないCDのように、ずっと回るばかり。廻り、廻っても、あ。なんか引っかかった。 桜。風。土。川。道。顔。幼。女。笑。思。約束。あ、そうだった。忘れていた。これはいつの記憶だろう。まるで経験したことがないように、新鮮に感じられた。まあ、名前を知ったならいいか。また、思い出せるはず。