- 夏ノ記
- 作品を書く瞬間から創作権は生まれます、故にこの作品の盗用は禁じます、犯罪です。
- 個人で書いている故に誤字又は脱字があります、ご理解お願いします
- 男女と団体と社会との乱脈を誘発する意図は一切ありません、作品としてみてください
今週更新はここから!
月が照らす今宵。
薄い霧が都会を纏い。
ビルの灯が薄くまり、人々を不安へ陥らせた。
- 「さあって、ひと踏ん張りしようかな~」
しかし、裏腹に一人の少女はわくわくしそうにしていた。
- 「今日はどこへ行くの~お兄ちゃん~」
そして隣の背が小さい女の子が満面の笑みを見せた。
- 「人々の心を揺さぶる煙が導びかせる所は、あのビルだな」
彼が指さしている所はファミレスだった。しかし、子供は一人も無かった。禁煙席、喫煙席関わらず、客は皆タバコを噛んでいた。
- 「今日のターゲットはこの人だ」
男の子はモノクロ写真を見せた。
- 「なにこの奇妙な写真は、本当に人間か」
彼女が腹を抱えて笑った。
- 「うちの兄さん方が格好いい」
当たり前な事をわざと協調してお兄さんに撫でられるつもりである妹であった。
- 「これ、顔ではなく能面、まあ、歴史上から消えた能面、『今力上涼生(こんりきじょうりょうしょう)面』だよ」
- 「お兄ちゃん~私難しい事はしらねぇ~優しく言って」
- 「『夏ノ今』という有名な小説、いや旧御伽噺『今夏(こんか)』の話」
- 「え~お兄ちゃんに言わせて~尭峰さん」
- 「お姉ちゃんにも優しくして~尭野ちゃん~」
- 「『今夏』、永遠の夏を起こす妖怪の話。しかしその妖怪は海に溺れた少女の怨霊であった。」
- 「お兄ちゃん怖い~」
抱きつく妹、尭野。
- 「まあ、僧侶によって成仏したから怖くないよ」
- 「兎に角、羽目を外して遊ぼうか」
- 「イエイ~お兄ちゃんと遊ぼう~」
- 「よし~あの忌まわしき『シテ』を倒すぞ」
そして三人は三代目の電波塔から飛び降りった。
そして旧首都高速だった『其ノ橋』素足で走り出した。
松松(きぎ)を通り過ぎると、松の香と排煙が
絶妙に絡み合って、妙な心地よさがあった。まるでビルビルに囲まれた平城京を歩く気分であった。
加えて檜の床(みち)からも香が醸し出し、走るにはもってこいの場所であった。
- 「下駄欲しいのお兄ちゃん」
- 「我慢しなさい、この仕事終わったらプレゼントするから」
- 「仕事に集中集中」
- 「尭峰、つれない」
- 「まもなく到着よ右に曲がるぞ」
三人は思い切り橋からジャンプし目標のファミレスの窓を破って入った。
- 「動くな、今日の飯はこのお姉さんが払うわよ~」
尭峰はスカートのポケットから銃を取り出した。
- 「みんなの気持ちいい夢はこの妹に任せて」
尭野は両髪に結んでいた二つの玉を取り出し、入口に投げた。
- 「バン~野蛮になりたくない連中は誰だ~」
入口が爆発しファミレスの中は大騒ぎになった。
- 「やっぱり子供は一人もいないな」
尭峰は予測したように言った。
- 「いたらこんな依頼受け取らん」お兄さんが言った。
- 「少子化はもうおわり、初期化に進んでいるん」
尭野は明るく言うが、内心悲しかった。この美麗な世界(そら)が消えていく事が。
- 「派手にちゃっちゃっとやっちゃおう」と姉が言った瞬間。
「助けてください、明日リストラされるんです。だから殺さないでください」とスーツ姿の男が言った。すると彼女は男の襟を片手で掴み耳元で叫んだ。
- 「あんたがリストラされるのは「現在」にしか見てないからよ、過去を基に未来をみなさい」
するとなみなみ目になって泣き出した。
- 「だってつらいんだよ、今を生きるのもつらいのに、過ぎた事を振り返る余裕はなんてないのに、先の事を考えるなんて、無理だよ」
内面の子供が露わになった。
- 「うっせい、もう子供なんかない世界なのよ!」
といいつつ男を軽く持ち上げ、ドリンクバーへ討ち投げた。
そいて様々な色の飲み物が噴水のよいに吹きあがった。
- 「やっと浄化されたね」
妹は、心は痛かったがにっこり笑ってごまかした。
- 「さあ、大掃除と行こうか~」
お兄さんは口角をあげて、息を吹き上げて走り出した。
銃の音が走り、物が壊れる音がした。物騒な雰囲気に包まれていた瞬間。明らかに雰囲気が違うゴスロリの人が壊れた窓から入ってきた。
黒、黒、黒。漆黒に包まれた雰囲気だった。
まるで雲に隠れているように見えたゴスロリの彼女。
目をゆっくりと開き、口元をゆっくり上げた。
誰が見てもゾッとする。鳥肌が立つくらいでは終わらない。真髄から震わせる恐怖によって両足で立つ事もできない。完全な不自由。それが事実。
- 「一人づつ殺すなんて、やはり人間は馬鹿な生き物。みんな一遍死んで創り直せばいいのに、このように」
物騒な彼女は、棺を開くと、床で転がっている人たちが自ら立ち上がり…
棺桶の中に入ろうとあがきもがいた。
まるで満員電車。人々は各々の終着駅(もくてきち)をいち早く着こうと、本能をさらけ出した。
- 「ははは、愚かな者共よ、扉閉めます~閉まる扉に注意はいらね~」
無理やり、扉を閉めると、絶級が響いた。
- 「ほら、贈り物~」
三人はいつも見ていたように、飽きていた。
- 「あんたの贈り物を触るもんか!」
尭野は手榴弾を投げだした。
- 「あ~美しい、みんな土へ帰らせてあげる」
コンクリートの床は溶け出し、そこから雑草が生え始め、野原になった。
- 「みんな、自然へ帰るべきよ、むりやり自然を遮断する必要はないのよ」
- 「おい、例の物をよこせ、今回の依頼はおめぇーが持っているその薬だから」
- 「あらら、お見舞いに来てくれたのではないの、嵌められたの私」
- 「そう、君をおびき寄せるためだよ」
高峰と残酷な女の人は睨みあいながら、話をした。不愉快な話。
- 「偉そうに、よく解ったな、私がこの場所を狙っていることを」
- 「依頼人がおめぇーのだとか言ったんだけど、多分それだからじゃね」
- 「ちっ、またあの兄きが」
彼女は、先まで子供のような無邪気な顔から、つまらなさそうな顔に戻った。彼女の兄?依頼者は確か女の人だった気が…
- 「まあ、いいは、薬、受け取りな、週に一回、寝る前、時間継続六時間四十五分、副作用の責任は取らないから、そこんとこよろしく、じゃな」
- 「次に会うことがないように、祈るわ」
あっけなく、この戦いは終わった。怪我をしたのは一般人のみ。当事者は傷一つもない、清潔であった。
- 「あ、もう話終わった」
尭野は途中から飽きて、ガラクタのようなゲーム機、「単行ぽん」、を暇つぶしに使っていた。
- 「約束通り下駄を買いに行くか」
お兄さんは半分居眠りしていたが、話が終わった瞬間、目がすぐ冴えた。
- 「今日は遅いから、明日でいいは」
- 「じゃ、今日は帰ろか、忘れ物ないようね」
- 「ないない」二人は口を揃えていった。
三人は飛び降りたが、高速ではない、一般道路に飛び降りた。
- 「相変わらず、きたねえな」と腐った匂いが充満する道を歩こうとする時に高野が言った。
- 「もう慣れろよ、もうタクシーはないから」と尭峰は言った。そう。道の整備は50年前から止まっている。
ぼこぼこになって、あっちこっち生い茂った草が見える道路。完全に自然に戻る事もできない。哀れな道路。
- 「車に乗るか、匂い遮断できるし」
この中で裕一免許証を持っているお兄さんが言った。
- 「いいよ、酔い止め持ってこなかったし」
車で吐くより、外で吐くのがましだと思った高野であった。
- 「そう、辛かったら言えよ」
尭峰はビニール袋を持ちながら言った。
- 「さすがに、それは遠慮しておく…恥ずかしい」
- 「なんでビニール袋がそんなに恥ずかしいの」
- 「丸見えじゃん!まるで全裸でビニールだけ被せたみたいでいや」
- 「いやいや、それとこれは別」
- 「自分の中身をさらけ出したくないの」
- 「そうそう、純粋な乙女でなによりです」
- 「冷やかしなの、まあ、乙女なのは否定しないけど」
- 「二人とも喧嘩は止せ、もう依頼者の所に着いたから」
今回の依頼人は物珍しい人であった。普通はせっかちで怒鳴る人が多いが、この依頼人はどてものろくて、イライラしているくらいであった。まあ、その割にギャラが普通より何倍も高くてよかったけど。後、依頼人が淹れた珈琲は美味しかった。
- 「待ってましたよ」
あれ?三人は違和感に気づいた。依頼人は確か男性だったはずだが、女性が出迎えていた。
「どなたさんですか」
高野が訊いた。
「あ、失礼しました。妻の嶺原です」
「そうですか」
お兄さんが答えた。
「では、こちらにお座りください」
相変わらず汚い部屋だ。時代遅れの電波送信機があちこちに散らばっていた。モノクロテレビ、ラジオ、カセットプレーヤー、等々。
その中で唯一奇麗な所、ソファーと監視カメラが流されている旧式パソコンが対面している場所。そこへ案内され、ソファーに座った。
「紅茶しかないんですが、いかがしましょうか」
「構いません」
尭峰が答えた。
「すみません、今主人が留守中で」
彼女は前もって準備してきた紅茶を机に持ってきた。
パソコンとソファーの間に挟まれたこの机、とても低かった。コップを持ち出すために腰を低くするのは結構疲れるが、まあいいか。あまり飲みたくないし、と心から高峰が思った。
「こちらがミルク、こちらが砂糖、こちらが塩、シロップは申し訳ございません。切れました」
「あ、いいです」
お兄さんはそう言って何も入れず、一気に飲み切った。
「主人がなにか受け取ってほしいといいましたが…」
「あ、これですね」
尭峰は鞄から、鉄製のケーズを持ち出した。そしてゆっくり開けると、煙と共に、注射器が姿を現れた。
「あ、そうですね、ありがとうございます」
「一体、この液体はなんですか」
尭峰は、ケースを閉まり、彼女の方へ差し出した。
「そうですね、東(あずま)の都崩落の前夜に完成された化学兵器と言いましょうか」
嶺原はケースから注射器を取り出し、ライトに照らした。
「このまま、アズマが崩落したら、時代の波に飲み込んじゃうので、それを防ぐための最新兵器」
嶺原は一笑した。
「まるで、津波を防ぐ為の防波堤のようなもの。人間を殺すのではなく守る兵器」
彼女は、一滴を自分の指の上に流し観察した。
「使い方は簡単」
目が変わった彼女は油断していた尭峰の手の平に刺した。
「皮膚に触れる事、元々雨として降らせるつもりだったが、失敗」
絶級する尭峰。彼女は自分の体が溶けだすような感じがした。
「許さん」
隣の尭野が彼女に銃をかました。しかし遅かった。天井から、電球が落ち、ガラスの破片が散乱した。周りは一瞬真っ暗となっが、よくよくみるとパソコンは光っていた。
絶級する尭野。彼女はお兄さんの腕を抱きしめて愛の力で耐えしのごうとしたが、それがむしろ絶望への近道になった。だって、彼の体は死体のような冷たかった。いや、死体そのものだった。
鳴り響く、姉妹の絶級。テレビには嶺原の顔が依頼人の男の顔に変貌するのがくっきり捉えていた。
ここから→
時間の遡り、混同の記憶。
過去か、現在か、歴史の隅々に渡る記憶の流水。沸き初め。噴出、かけがえもない思ひ、恋、愛…数え切れない無数の感情線が一つの輪となるため、締め合い、ぐんぐん伸びていく。灰色でぼやけている、雲雲をくぐり、雷撃を交わしながら、進。上へ。上へ。記憶の隙間を探し、貫き、芽生え。新な、いやもっともあった懐かしい思ひ。その思ひを思い出すために。数百、数千を駆け抜ける、魂の思ひ。旅の思ひ。家族、友人、街、町、空、海、山。変わりゆく年月でも錆びない、淋しい思い、ささやかな思ひ。この身が果てるまで握りしめた、あの時の思い玉。崩れることもなく。浮かび上がる。上へ上へ。縄と共に。忘れない永久(とわ)の記を探すため。そして雷鳴が聞こえる、閉ざされていた、魂の旅が始まる。頭をよぎる、数々、無数のフィルム。黒く焦げた、記憶。黒い点、点、点。見えづらいが、どこか、暖かく、共に冷たく、矛盾だらけでも面白い記憶。点と点が伸び、伸び、繋ぎ、繋ぎ、ぱっと放つ。花火、色どりどり、の花火。花を咲かせる火ぶた。落ちても灼けない記憶。もう、忘れない。鮮明に蘇る、辿り着いた過去の思ひ、今の記憶まで。縄は、花を咲かせるように、解き、時、はじめ、始め。優しく、記憶の欠片に思ひを乗せる。重みを載せる。まるで昨日の出来事だったように感じられる、記憶と思ひ達。今は、カラーで見える。人も、自然も、私も。もう花は咲かせた。水やりだ。空から落ちる恵みの雨、心を揺らし、涙を流す。
「なぜ、わすれたか、わすれてはいかない思ひを」
尭野は思い返した。思い出した。この国、この身、自信が、何度も生まれ、何度も果てる、記憶。そう、彼女は今まで自分が生きて来た、すべての過去、つまり前世を思ひ出したのだ。そう、その薬は前世を思ひ浮かばせる、薬。
「ここはどこ」
記憶と思ひが湧き出ているので、多少の記憶障害はあるが問題ではない。
彼女はゆっくりと歩き初め、外へと出てみた。町の様子は完全に変わっていた。
過去の建物が土から生え出し、現在(もと)の建物を押し出し、ていた。まるで秩序なんてない、茂っている木々の森のように絡んでいた。そして、澄んでいる空気。
この世界で一度も吸ったこともない、匂い。なぜか浄化されていた。
先まで歩いた道路は、雑草が生え野原のようになっていた。
「自由、これは自由ある世界だ」
そう思ひ走り出した。上る太陽に向けて。力強く。輝く未来へ向けて。